2021年令和3年 中村佳穂 リピー塔がたつ

2021年令和3年 中村佳穂 リピー塔がたつ

ポップであることと、ディープであること。思うに、中村佳穂を理解するキーワードは〈ポップとディープのバランス〉ではないか。このバランスにこそ、彼女のユニークさがあるように思えてならない。『AINOU』が特別なのは、彼女にしか書けない歌詞やメロディーがあったためだ。中村ならではの思いもよらない発想や意外性、いわばディープな面にこそ、聴き手は新鮮さを感じた。しかしそのディープさは取り扱いがむずかしく、表現は人びとに伝わりやすいよう適切にコントロールされる必要がある。そのバランス調整こそが、2年半の制作過程における試行錯誤だったのではないか。こうして説明しながら、あたかも猛獣のように創作をおこなう中村と、彼女を必死に制御する猛獣使いのミュージシャンたちという微笑ましい図式が浮かんできてしまう。

かくしてサブスクリプション以降、無数の作品が絶え間なく聴き手に届けられるなか、〈記憶に残る音楽〉を届けることのハードルは格段に上がったように思う。だからこそ、京都在住のミュージシャン、中村佳穂のセカンド・アルバム『AINOU』を初めて聴いた瞬間の驚き、目の覚めるような新鮮さについての文章を書く必要がある。数多くの音楽ファンが、一聴した途端「こんな歌は聴いたことがない」と直感できるほどに特別なサウンドを、なぜ彼女は作ることができたのか。歌詞やメロディー、声は誰にも似ていないのだが、楽曲全体はとてもポップで軽やかに聴こえるという絶妙なバランス。『AINOU』は、情報の洪水にあっても決して忘れようのない音楽であり、膨大なリストのワン・オブ・ゼムにはなりえないオリジナルな表現だからこそ、これほどの反響があったのだ。

中村佳穂さんは、「京都府」の出身で地元の「京都精華大学」を卒業している現在26歳の女性シンガーソングライターです。

ラストはASAYAKE01とのツインボーカル、中村佳穂はあらゆる表現を試す。この曲を表題曲にして、しかもラストに持ってくるの、アバンギャルドすぎるでしょ。単体で聴いたらそう思うんだけど通して聴くと、確かにこの曲は必須なのだという気がしてくる。「そのいのち」が地球上で紡がれてきた歴史なら、「AINOU」はそれを広大な宇宙空間へと拡張していくようなスケールの大きさがあるからだ。荒木が演奏しているであろうシンセサイザーが幅広い。

『リピー塔がたつ』のリリースからは少し時間が経ってしまったが、この才能を2016年のうちにしっかりと伝えたいという想いから、ライヴのため来京していた中村に初インタヴュー。Skypeで京都にいる小泉にも参加してもらい、これまでの歩みを振り返ってもらった。

中村「私のなかでブームみたいなのがあるんですけど、最近は今年の〈フジロック〉に出たメンバー(スティーヴ・エトウ、深谷雄一、荒木正比呂、RyoTracks)を誘うことが多いですね。10月の〈ボロフェスタ〉にも同じメンバーで出ました」

くわえて興味ぶかいのは、レコーディング中スタジオに掲げられたという 〈ディープ禁止〉の貼り紙である。中村は他のミュージシャンたちと2年半の制作期間を経てアルバムを完成させたのだが、その際の合い言葉となったのが〈ディープ禁止〉だったという。では彼らが禁止した〈ディープ〉とは、具体的にどういった意味か。言い換えれば、誰に対しても伝わりやすい表現であることや、ポップ・ミュージックの枠組みから大きく外れないこと、軽やかであることなどだろう。逆に考えると、みずからに〈ディープ禁止〉を課さなければ、聴き手へと伝わりにくい表現の深みにやがて落ち込んでしまうという意識を持っていたことがうかがえる。

中村佳穂の新作『AINOU』は、R&Bが進化していく現在のシーンに追従する表現を持ちながら、それらの音楽に共通するインディ感を克服しうるポップさを持っている。

中村「絶対聴いてない。〈何言ってるか全然わからへん〉みたいになっていたと思うけど、いまは大好きですね。ジ・インターネットとかもすごく好き」

中村「最近見つけた良い音楽を交換し合う友人がいて、その人が2年前くらいにハイエイタスを教えてくれて、〈めっちゃ良い!〉となったんです。曲を作るときにはそこまで意識してないんですけど、声をかけるバンド・メンバーが黒い音楽寄りになってきたというのはありますね」

仕切り直し、幕間ともいうべき曲。これから独自レーベルを持つアーティストとして、音楽業界に羽ばたき、遠くへ行ってしまいそうな中村佳穂を、これまでよりも近くに感じる。彼女がかつて実際に使っていた手法である、IPhoneのマイクで撮ったような声を、なにか予期せぬ未来が待ち受けているような、リスナーに歩を進めさせる和音が下支えする。この曲は中村佳穂の未来と過去の狭間を表した曲なのかもしれない。

中村自身、サウンドメイクを重視した音楽を作りたいという明確な意図を持って制作にあたったとインタヴューで語っているが、彼女が直感したように、いまのポップ・ミュ―ジックでは、どのような音が鳴っているか(ミックス・音像)によって曲の印象が決まる側面が大きい。こうした点について意識的なミュージシャン、たとえばKIRINJIの堀込高樹は、自身の音楽制作について「自分がやっていることをポップスとしていま機能させようと思うと、ダンス・ミュージック的な音像、音圧は避けて通れない。低音の感じや上の伸び方は、いまの音楽を参考にした」(ラジオ番組内での発言を要約)と説明している。『AINOU』に関わったミュージシャンたちへのインタヴューを読むと、彼らが作品における音の印象、鳴りを強く意識しながら制作していたことが語られている。「音のチョイスは本当に大事。普通の曲になっちゃうかどうかの分水領だと思う」(録音を担当した荒木正比呂)と語る周囲のミュージシャンたちは、音色の選択、録音からミックスに至るまで、音像の機能性を念頭に置きつつ完成させていったことがわかる。

そして、彼女を現在サポートしているのが、SIMPO RECORDSの小泉大輔だ。くるりと同じ立命館大学のサークル〈ロックコミューン〉の出身で、2000年代はママスタジヲとして活躍。2009年にスタジオシンポを立ち上げ、HomecomingsなどのSECOND ROYAL勢をはじめKONCOSや花泥棒ら多くのバンドのレコーディングに協力。2015年にはレーベル、SIMPO RECORDSを設立し、中村が7月にリリースした最新作『リピー塔が立つ』の他にも、スーパーノアやビバ☆シェリー、ギリシャラブを世に送り出している。

序盤に見せた静かで美しい表現は、曲のブロックが切り替わる度に増えていく音により、新たな命を吹き込まれていく。この電子音の応酬に中村佳穂を支え、『AINOU』をともに作り上げてきたシンセサイザー奏者、荒木正比呂の大きさを感じさせられる。この凄腕の電子音楽家が、彼女の音源にオリジナリティとノイズによる陶酔を与えているのだ。

そんな今後大注目なアーティストである”中村佳穂”さんの基本情報をこちらにまとめたいと思います。

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