2021最新 長谷川唯 ファンタジスタ

11年の女子W杯でMVPと得点王に輝いた澤穂希さんは、今大会で長谷川を注目選手に挙げ、次のように話していた。

小学校卒業後は、日テレ・ベレーザの下部組織メニーナに入団。メニーナで中学・高校と長谷川を指導した寺谷真弓さん(現東京ヴェルディ・アカデミーダイレクター)によると、当時の長谷川は体格がひときわ小柄で、身長、体重ともに小学3年から4年生ぐらいの平均値だったという。だが、当時からサッカーセンスは光っていた。

なでしこジャパンの未来を担う若きファンタジスタは果たして、フランスの地でどんなプレーを見せてくれるだろうか。

今年4月の欧州遠征で、日本は開催国のフランスに1-3で敗れた。内容面でいいところがなかったが、長谷川は結果をしっかりと受け入れて前に進んだ。また、6月2日のスペイン戦(△1-1)も、長谷川自身はあまり良いプレーを見せられず、試合後は個人としてもチームとしても、うまくいかなかった原因や改善点をしっかりと分析した。フランスもスペインも、優勝候補の一角だ。だが、長谷川はW杯で対戦することを恐れてはいない。「相手の戦い方を知り、駆け引きできる材料が増えた。だから、勝てる可能性が増えた」と、言外にほのめかす。なんとも頼もしい。

東京都出身。女子サッカーの最前線で取材を続ける、スポーツジャーナリスト。なでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンをはじめ、女子のU-20、U-17 が出場するワールドカップ、海外遠征などにも精力的に足を運び、様々な媒体に寄稿している。

なでしこジャパンの左のサイドアタックを担う縦のラインは、MF長谷川唯とDF宮川麻都。日テレ・東京ヴェルディベレーザでは宮川が長谷川の一つ下の代で、長谷川がACミラン(イタリア)に移籍するまでずっと一緒に戦ってきたから、お互いを深く理解し合っている。
「唯さんとはサイドで組むこと多かったので、動きはわかっていました。遠くなりすぎず近すぎず、距離感を大切にして、唯さんに出す回数が多かったと思います」
このチームのキーワード「距離感」が2人の間で心地よく生かされたシーンは、最後のテストマッチで唯一のゴールにつながった。7月14日のオーストラリア女子代表戦。宮川が左からカットインすると、長谷川がクロスオーバーして左前へ。そこに宮川が通したパスを長谷川がセンタリングしたところで、相手の手に当たったとしてPKの判定となった。
「自分自身の強みはビルドアップやパス回し」と胸を張るだけあって、見事なコンビネーションだった。
このPKを岩渕真奈が決めて1-0で勝利を収めたが、守備の課題も明らかになった。スピード自慢や長身選手の揃うオーストラリアは、積極的にサイドから仕掛けて多種多様のクロスボールを放り込んでくる。小柄な日本対策としてはどのチームも組み込んでくる「定番」だ。宮川も自分のサイドをスピードで破られたり、逆サイドから飛んでくるボールの対応に追われた。
「スピードある相手に対して、いつもよりもっと早く下げなければいけない場面がありましたけど、いつもと同じ感覚でやってしまいました。カナダもイギリスも速い選手が多いので、クロス対応は引き締めてやっていかなければいけないと思います」
26分にはきれいに縦パスで自分のサイドを割られて、ゴール前に送り込まれている。本大会でより速い相手にどう対応するか、絶好のシミュレーションになっただろう。一方で、逆からのクロス対応には手応えがある。
「たくさん練習したので、逆から来るボールへの対応はいままでよりもできたと思います」
その言葉通り、39分に右サイドから自分の裏に入ってきた鋭いアーリークロスにも素早く反応、追いつこうとする相手に巧みに体を当ててブロックし、完全に動きを制御した。160センチの小さな体を上手に使った賢いプレーだった。
「あと1週間しかないけど、味方との連係を高くしてミスのないようにしっかり前に運んでいきたいと思います」
まずはカナダ、イギリス、チリと立て続けに中2日で戦うグループステージで、この日のレッスンの成果を生かすつもりだ。

156cm、46kgと、23名のメンバーでも特に小柄な体格だが、卓越したテクニックで大柄な相手をひらりとかわし、時に大胆なアイデアでスタジアムを沸かせる。宮城県で生まれた長谷川は、幼少時に埼玉県戸田市に移り住み、戸田南FCスポーツ少年団でサッカーを始めた。その後、戸木南ボンバーズに入団。ドリブルが大好きだったという長谷川は、ロナウジーニョに憧れた。

優勝した2011年ドイツ大会、準優勝だった15年カナダ大会で一時代を築いたチームが一つのサイクルを終え、16年に新監督に就任した高倉麻子監督は、多くの選手に機会を与えて競争を促し、その中で世代交代を進めてきた。今大会で選ばれた23名の平均年齢は約23.9歳(メンバー発表時)で、全24カ国中2番目に若い。

2人のコンビネーションは、今大会でも日本の武器になるだろう。昨年から、長谷川のプレーはスケールアップした。ドリブルや周囲とのコンビネーションで相手の裏を取るプレーが増えた。また、フィジカルトレーニングに力を入れ、1対1に強くなった。今年、大学を卒業し、ベレーザでチームメートのDF清水梨紗とともにプロ契約選手になった。サッカーに集中できる時間が増え、パフォーマンスのさらなる向上が期待される。

指導は厳しかったが、長谷川はその中で技術だけでなく戦術的なスキルも高め、持ち前のセンスを開花させていった。

新たに台頭してきた世代は、14年のU-17女子W杯や18年のU-20女子W杯で世界一になった経験を持つ選手が多い。その中で、攻撃のキープレーヤーとして注目されてきたのがMF長谷川唯だ。

そして、年代別代表でも着実に頭角をあらわしていった。12年のU-17女子W杯(ベスト8)で、長谷川はMVP3位に当たるブロンズボールを受賞し、優勝した14年のU-17女子W杯では準MVPに当たるシルバーボールを受賞した。3位になった16年のU-20女子W杯でも中心選手として活躍。国内リーグでは13年、16歳の時にベレーザで試合に起用されるようになり、15年からはリーグ4連覇の原動力になった。クラブと年代別代表で10年以上ともにプレーしてきたMF籾木結花とは、時々、想像もできないようなコンビネーションから点を取る。

自身の性格について聞かれたときの長谷川の返答には、その強靭なメンタルがよく表れていた。