2021年令和3年 井岡一翔堀口恭司

ベルトもプライドも守った。腫れた左目をサングラスで隠した井岡は、1日に行われたオンラインの一夜明け会見で、爽やかな笑顔を浮かべた。
「8ラウンドで終わったので12ラウンドを戦ったときより疲労感は少ない。試合前から言い続けた“結果で証明する”“レベル、格の違い”は見せれたと思う。田中選手は、スピードも評判通りでパンチ力もそこそこ。バランスのとれた選手で強いと思った。でも、ここまでの時間(経験)が違うと思っていた。この時代に拳を交えるなら(4階級制覇)を阻止して黒星をつけるしかないと思っていた。1年が無駄じゃなかった。いろんなことを信じてやってきたことを形にできてよかった」
ボクサーのほとんどはアドレナリンが全身を駆け巡った“後遺症”で試合後は眠れないものだが、自宅で年越しを迎え「すぐに眠れた」という。
映像も見返した。「若干の判断ミス」が気になった。
1ラウンドのゴング直後に打たれた右ストレートへの対応と、3ラウンドの終わりに浴びた右ストレートの2つのディフェンスのミスだ。
「完璧を目指す。こういうのを減らしていかなくちゃいけないと再認識した」という。
この向上心こそ井岡を日本ボクシング史上初の4階級制覇王者に君臨させている理由なのだろう。新型コロナ禍の影響で昨年の大晦日以来、1年ぶりのリングとなった井岡は明らかに進化していた。目立ったのは若き3階級制覇王者のパンチをことごとく防いだ高度なディフェンス技術と、流れるような攻守の切り替えである。
「(この1年の練習期間に)細かい発見ばかりがあった。アルバレスやメイウェザーの試合を見ると、彼らは距離や、微妙な体の位置、体の使い方をひとつひとつ考えて理に適った動きをしている。参考になった。例えば膝を沈める動きひとつをとってみても重心を下げるだけでなく、こう動けば、こう次につながるという細かい(効果を)生み出せる」
下半身の重心の位置を変えることで田中のパンチが届かない距離に上半身を置き、紙一重のタイミングで外し、瞬時の重心移動で攻撃に移る。またガードと体の向きの変え方をミックスして田中の猛攻撃をすべて封じた。
実は、昨年12月19日に1年1か月のブランクをものともせず、WBA、WBCの2団体のスーパーミドル級のベルトを統一したスーパースター、サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)も、そのカラム・スミス戦で18センチの身長差を克服して高度に進化したディフェンス技術を披露している。ガードにウェービング、ダッキングのボディワークをミックスさせ、ボディ攻撃はヒジやパーリングで防いだ。それらの“神技テクニック”を井岡は参考にしていた。そして、その技術習得を可能にするため、「本質的な体の動きを高めよう」とピラティスも練習に取り入れていた。

大晦日の格闘技は盛り上がった。東京・大田区総合体育館では、プロボクシングのWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチが行われ、4階級制覇王者の井岡一翔(31、Ambition)が3階級制覇王者の田中恒成(25、畑中)との注目の日本人対決を8回TKOで決着をつけ、埼玉・さいたまスーパーアリーナでは総合格闘技のRIZINバンタム級タイトルマッチがメインで行われ、元王者の堀口恭司(30、ATT)が現王者の朝倉海(27、トライフォース赤坂)を1回TKOで下し501日ぶりにリベンジを果たした。2人に共通するのは新型コロナ禍、あるいは故障でリングに立てなかったブランクという名のピンチを進化に変えた力だ。